学生時代の親友・鎌田陽司君から嬉しい電話があった。
「波多野！ようやく、本が完成したので送るよ」「おう、鎌ちゃん、そうか。そうか。良かったね」
「もうひとつのノーベル賞」といわれるライト・ライブリフッド賞を受賞しスウェーデンの言語学者ヘレナ・ノーバーグ・ホッジが書いた「懐かしい未来 ラダックから学ぶ」（山と渓谷社）が増補改訂版の文庫本（ヤマケイ文庫）として蘇ったのだ。
世界40カ国で翻訳された名著だが、日本語版は2003年、鎌田の尽力で出版された。
インドの小チベットとも呼ばれるラダックは、何世紀もの間、外界の影響をほとんど受けることなく、伝統的で自給自足的な生活が営まれてきた。そこには、産業社会が失った「時間」や「幸福」があった。しかし、グローバリゼーションと物質文明の大波はヒマラヤの辺境にまで襲いかかる。貨幣経済が貧富の差をもたらし、グローバル経済が本来不要なものへの欲求を生み出し、彼らの世界に満ち溢れていた時間と幸福を奪った。
世界各国で起こったグローバリゼーションの弊害は、あの「茹でカエル」の話のようにジワジワと時間をかけて変化すると気づかないものだが、短期間の中で起こったラダックの変化を見るとよりドラスチックに把握できた。そして、著者は古くて新しい道としてローカリゼーションという希望の光を指し示してくれた。
原題「Ancient futures」を「懐かしい未来」と訳したのは極めて秀逸。その後、坂本龍一さんほかのアーチストの作品や様々なメディアが、この「懐かしい未来」という言葉を使った。TAO塾のマクロビオティックをベースにした料理教室もいつしか「懐かしい未来食料理教室」と呼ぶようになった。
2008年には、鎌田に作者のヘレナを紹介してもらい、私もインタビュー記事を月刊Macrobique誌に書かせてもらった。
https://taojuku.jimdofree.com/%E5%9F%B7%E7%AD%86%E6%B4%BB%E5%8B%95/
学生時代、鎌田そして今は京都の丹後で6次産業のプロジェクトを推進している早川雅映の３人で、毎月、様々な分野の最前線で活躍している識者、実践者をゲストに話を聞いて、会食し交流する会を主催していた。
そのゲストの1人に環境活動をされていた熊本の栁田耕一さんがいたのだが、不思議な縁で、我が小国町で吉本興業の芸人さん達と共に「笑いの医学」をテーマに講演に来てくれた昇幹夫医師から、柳田さんの本を紹介されたことがあった。
本のタイトルはズバリ「アメリカ中毒症候群」！今の アメリカは、やることが乱暴で独善で行き当たりばったりの思考停止状態の中毒患者ではないか。日本を 含め多くの国にその症候群が広がりつつあると警告する。この American addiction syndrome は、実に社会の多岐に及ぶ。
暴力中毒・買物中毒・クルマ中毒・ファーストフード中毒・クスリ・薬品中毒・保険中毒・訴訟 中毒・金融中毒・ハイテク中毒・ギャンブル中毒・働き中毒・情報中毒・成長神話中毒・二重基準中毒・・・。
アメリカ発のグローバリゼーションの大波は、日本全国の片田舎にも押し寄せている。コンビニ・量販店・ 巨大スーパー・百円ショップが出来、大勢の消費者が先々の悲惨なムラの光景を想像もせず行列作って喜んでいる。
将来の話ではなく、もう既に地方町村の中心市街地の多くは、店のシャッターが降り空洞化が進み、自殺者・夜逃げ者等が急増しているというのに！ 地球規模で押し寄せる大波は阿蘇の山もヒマラヤの辺境にさえ及ぶと、柳田さんの本と共に、我が親友の鎌ちゃんが中心となって翻訳 した「ラダック・懐かしい未来」という本をTAO塾通信に紹介した。
微力な我々には、どうしようもなく感じる地球的規模で動く環境破壊・金融システムそして戦争・・・それらについて真実の情報を入手し、洞察を深め、各種の運動を起こしていくことも大切だろう。
しかし、「懐かしい未来」へ向けて、足元のローカルから小さな一歩を踏み出し、「小さな現実」を創り出していく生き方は楽しく、心身ともにﾜｸﾜｸして、実に爽快だ！パーマカルチャリストは、反戦アクティビスト達から「山野でﾉﾝﾋﾞﾘ農業 やるのではなく、もっと平和運動に参加せよ！」と批判されるのに対し、こう答えるという。
「ＮＯを唱え続 けるのも運動だが、ＹＥＳというライフスタイルを一足先に実践することはもっと重要なのだ！」と。
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