今日は、これから阿蘇の山里を降りて、福岡へ向かい「医療者」ではない私が「東洋医学的世界観と懐かしい未来」をテーマに講演させてもらう。
「懐かしい未来」という言葉は、学生時代からの旧友である鎌田陽司が世界各国語で訳された名著「Ancient Futures」を「懐かしい未来」と名訳したことに由来する。
かつて、来日した著者のヘレナ・ ノーバーグ=ホッジを彼に紹介してもらい、インタビューさせて頂いた後、とあるエコビレッジで一緒に食を共にし、歌いダンスする楽しい時間を共有した。
彼女は、もう一つのノーベル賞として知られ、持続可能で公正な地球社会実現のために斬新で重要な貢献をした人々に与えられるライト・ライブリフッド賞を1986年に受賞した現代の賢人の1人。
彼女の提示した「グローバリゼーション」から「ローカライゼーション」への転換を呼びかける「懐かしい未来」の観点は様々な世界に新しい地平を見出す。
「懐かしい未来」の経済とは?「懐かしい未来」の教育とは?「懐かしい未来」の医療とは?・・・
私たち人間にとって「紛争」と「病気」ほど嫌なものはない。
しかし、「懐かしい未来」思考の叡智である古くて新しい「東洋医学」や「紛争変容学」の視点で観ると、その意味合いは違って見え出す。
そこに通底する「変容」という捉え方は、老子=タオイズムの「無為自然」「無為の為」の世界。
紛争を「悪」と観て、それをどう「解決」していこうかと考える「紛争解決」的思考は、西洋医学が、病気を外的要因による不幸な出来事であり、その「悪」を取り除くために、手術や医薬品などによる攻撃的な処置をする観方に似ている。
一方、東洋医学は病気は食べ物、行動、精神など人間自身の生活環境の歪みととらえ、体内の異常を元に戻そうとする自浄作用のあらわれと見る観方は、「紛争変容」的思考に似ている。
つまり、東洋医学において、病気とは身体の恒常性を維持しようとする機能(ホメオスターシス)の発現であり、そういう意味においては「有難いもの」と考えるのである。
自浄作用の一時的な症状はそのままにして、生活習慣による体内環境の歪を是正しつつ、自然治癒力を活性化する手段を取る。その手段の特徴は、西洋医学の攻撃型とは対照的に、穏やかで長期的、総合的、全体的である。
常に変化している体の一時的状態で痛みや不調を、単純に悪と決めつけ、異常な状態、異物として認識することは、なぜ、そういう状態になったのかという体の都合を無視することにつながる。
また、「紛争解決」でなく「紛争変容」の視点は、紛争自身が持つ「関係を変革する力」を人間関係や社会構造を互恵的で協調的なものにする力として用いることができないかと捉える。
紛争は当事者の対応次第で破壊的な方向にも建設的な方向にも動き得るものであり、建設的な紛争は当事者間の関係だけでなく社会構造をも変革し得る。紛争がなくなることが平和ではなく、紛争が絶えず建設的なものへと変革される営みこそが大事なのだ。
平和を静的な「状態」と捉えるのではなく、動的な「行い」と捉えてみよう。conflict as an opportunity for transformation(変容への契機として紛争)という観点は、東洋医学に見るillness as an opportunity for transformation(変容への契機としての病気)の世界観に類似している。
「紛争」と「病気」・・・観方が変われば世界は変わる!
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