コロナからのメッセージ

コロナからのメッセージ 心と体の関連性

今日のひとこと

全ての病は心身相関

西洋(現代)医学の進歩はめざましいものがある。しかし近年、専門化・細分化されすぎ、時として「木をみて森を見ず」に陥りがちの西洋医学だけでは解決が難しい分野(不定愁訴や副作用の緩和、体質改善等)を中心に、東洋医学への注目度が高まっている。

日本漢方生薬製剤協会の調べによると、日本でも、医師の約84%が普段の治療で漢方薬を使っているということだが、使用理由としては「西洋薬で効果がなかった症例で漢方薬が有効」(56.4%、複数回答)というものが最も多い。次いで、「患者の要望」(44.3%、同)、「エビデンス(科学的な根拠)が学会などで報告された」(33.6%、同)などが上がっている [ 1 ]

また、2001年からは、医学部教育で漢方が必須になったという事実からも、かつてのような西洋医学と対立する構図は薄れつつあることが伺える。

また、日本東洋医学会はホームページ上に、漢方薬の有効性を西洋医学のルールに基づき検証した結果報告を集め公開している。この「エビデンスリポート」の数は、現在300を超えている[ 2 ]

日本東洋医学会の寺澤捷年氏は「人間の体を細分化して治療する西洋医学が進歩したからこそ、人間の体を統合的にみる漢方に注目が集まるようになった」とも解説する。

西洋医学は、分析的な視点をもとに臓器や組織、細胞レベルで症状に対処するが、不定愁訴があるにもかかわらず精密検査で異常が見つからないと、打つ手がない。一方の漢方は、症状ではなく人を診る方法をとり、体質改善を図り体に備わった自然治癒力を引き出しながら、まだ検査では異常が見つからないが病気の前段階の状態の段階から多彩な症状を改善していく。

西洋医学の祖とされるヒポクラテスは、「生体には身体のバランスを回復させる自然の機能が備わっており、医師の最も大切な役目はそれを手助けすることである」と説いている。[ 3 ]

また、統合医療の生みの親であり「アメリカで最も影響力のある20人」のひとりとしてタイム誌の表紙に二度にわたり取り上げられたアンドルー・ワイル(Andrew Weil)も、自己治癒力の向上の重要さと伝統医学の有用性を数多くの著書で主張し続けている[ 4 ]

2007年、アンドルー・ワイル博士が私の生まれ住む阿蘇小国郷に来られ、TAO塾の提供する地元の無農薬オーガニック食材で作ったマクロビオティック料理を食べていただく有難い機会を得た。TAO塾そして、縄文の聖地と呼ばれる南小国町中原の「押戸石」山にお連れし歓談。

彼は「日本の医学会はアメリカに比べ、権威主義的である。しかし一方で、漢方・鍼灸などの東洋医療の根強い伝統があるので、統合医療の発展する可能性は十分ある。」と語った。これからは、現代医学(西洋医学)と伝統医学(東洋医学)の両者の長所を伸ばし、短所を補完しあう統合的な医療が望まれると彼は主張している。

また、デカルト以来「心と体を別々のもの」として観る機械論的身体観に立った医学が発展してきたが、心身はコインの表と裏のような関係だと言うのだ。彼は、ベストセラーになった著書「ひとはなぜ治るのか」の中でこう書いている。「心と体を切り離すことができるのは言葉の上だけのことだ。人間が心身であって身だけではない以上、あらゆる病気は心身相関病である。病気に対処する治療戦略は、まずこの事実に立脚していなければならない。あらゆる病気が心身相関病だということは、あらゆる病気が身体的要素と精神的要素の両面があるということ」[5]

東洋医学の理論の特徴のひとつとして、「身体の状態と精神(心)の状態は密接な繋がりがある」というものがある。たとえば、東洋医学の中核をなす「陰陽五行論」では、身体にある主要な臓器を含めた経絡と呼ばれる気血の流れ[6]に、それぞれ対応した感情があるとしている。(図32)(図33)

例を挙げると、肝臓と胆囊は「忍耐力」と対応しているので、肝臓・胆囊が不調であれば、忍耐量が低下し、短気になり、怒りの感情が生まれやすく、また、胃と膵臓・脾臓は「信頼感」と対応しているので、胃、膵臓、脾臓が不健康であれば、他人に対する不信感や猜疑心が増すといった精神状態の不調が生じる。すなわち、身体の不健康が、精神状態の不健康につながり、それが対人関係にも影響し、ひいては紛争につながるということが考えられる。

ただ、臓器を含めた経絡と感情の関連性に関しては、十分な科学的裏付けが取れているわけではない。そもそも、経絡という存在自体、解剖学などで科学的、視覚的に形態・組織などの存在が確認できない東洋文化から生まれた考えである。しかし、WHOで定義された[7]ように、経穴に現れる反応は、病状によりほぼ規則的な一定の反応を示す事も事実で、今後の研究成果が待たれている状況である。感情や精神作用との関係も、心身医学、精神神経免疫学などの今後の発展により解明していく部分があるのかもしれない。

伝統医学が、実証手段を持たなかったことで経験科学における成果を陰陽五行説という思弁的哲学に組み込んだ事実はあろう。しかし、唯物的な機械論的還元主義の科学が、いのちある人間というものの総体を把握しきれているとは言えない。伝統医療の効果を一概に偽薬効果と呼び、迷信の類いに押し込めてしまうのではなく、大学研究機関や医療機関が中心となって今後も科学的検証をし続けることが大事ではないだろうか。[8]

コロナをきっかけに、自らが持つ「免疫力」「自然治癒力」が注目されつつある。多様化・複雑化している現代人の病気、現代社会の医療問題に対応するもう一つの治療法として、さらには、平和な社会づくりの基礎としての心身の健康・養生法としてホリスティック[9]な健康観を持つ東洋医学やインドのアーユルヴェーダ[10]などの伝統医学の叡智が今後ますます見直されていくに違いない。

[ 1 ]漢方薬処方実態調査:日本漢方生薬製剤協会 2008年11月

[ 2 ]日本東洋医学学会 ホームページ 構造化抄録及び構造化抄録作成論文リスト

[ 3 ]大槻真一郎訳「ヒポクラテス全集」(エンタプライズ)1985年

[ 4 ] アンドルー・ワイル「人はなぜ治るのか」(日本教文社)1984年「ナチュラルメディスン」(春秋社)1990年「癒す心治す力」(角川文庫)1998年など

[5] アンドルー・ワイル「人はなぜ治るのか」(日本教文社1984)

[6] 経絡(けいらく)の経は経脈を、絡は絡脈を表し、古代中国の医学において、人体の中の気血榮衛(気や血などといった生きるために必要なもの、現代で言う代謝物質)の通り道として考え出された。経脈は縦の脈、絡脈は横の脈の意。

[7] 2003年からWHO経穴部位国際標準化公式会議が日中韓をはじめとした9カ国2組織が参加して開かれ、2006年に経穴の場所が統一された。

[8] 日本では、1994年に鍼灸関連の大学院博士課程が初めて設置(明治鍼灸大学)され、2005年には、国立初の鍼灸学科を擁する4年制大学設置(筑波技術大学鍼灸学科)が設置された。

[9] ホリスティック(Holistic)という言葉は、ギリシャ語で「全体性」を意味する「ホロス(Holos)」を語源としている。 そこから派生した言葉には、Whole(全体)、Heal(癒す)、Health(健康)、Holy(聖なる)…などがあり、健康-Health-という言葉自体が、もともと「全体」に根ざしている。

ホーリズムとは、「全体とは部分の総和以上のなにかである」という表現に代表される還元主義に対立する考え方で、臓器や細胞などといった部分に分けて研究し、それを総合したとしても、人間全体をとらえることはできない。 現実の基本的有機体である全体は、それを構成する部分の総和よりも存在価値があるという理論であり、同時に、一固体は孤立に存在するのではなく、それをとりまく環境すべてと繋がっていると考え方である。

現在、「ホリスティック」は、「全体」、「関連」、「つながり」、「バランス」といった意味をすべて包含した言葉として解釈されているが、的確な訳語がないため、そのまま「ホリスティック」という言葉が使われていう。しかし、意味する内容は決して新しく輸入された考えではなく、もともと東洋に根づいていた包括的な考え方に近いものといえよう。

[10] アーユルヴェーダとは、サンスクリット語のアーユス(Ayus;生命・寿命)とヴェーダ(Veda;科学・知識)が組み合わさって出来た言葉で、「生命科学」という意味。アーユルヴェーダはインドに伝わる伝統医学で、漢方(中国医学)と並ぶ東洋医学の双璧をなすもので、ギリシア医学、中国医学、アーユルヴェーダの3つを称して世界3大伝統医学と呼ばれている。

アリゾナ大学アンドルー・ワイル博士の言葉

  • 心と体を切り離すことができるのは言葉の上だけのことだ。人間が心身であって身だけではない以上、あらゆる病気は心身相関病である。病気に対処する治療戦略は、まずこの事実に立脚していなければならない。あらゆる病気が心身相関病だということは、あらゆる病気が身体的要素と精神的要素の両面があるということ